育児

普通ではない現実がある

 中3の女子生徒が、真夜中、就寝中の父親(46歳)を包丁で刺し殺す、という出来事がありました。その3日前には、中2の男子生徒によるバスジャック事件もありました。結果としての行為に違いこそあれ、二人の心の根底にあるものは同じだったのではないかと思います。今回の出来事を知ったとき、1月に起きた八戸母子殺害事件を思い出しました。18歳の長男が、母親と弟と妹を殺し、母親の腹部をサバイバルナイフで切り開き、そこに人形を詰め込みました。そのときには、その背景に『普通ではない現実』があると考える他ないと感じました。しかし、もしそうだとしたら、それはあまりにも悲しい現実に思えてなりません。

 数年前、娘と父親のことを詩にしました。

    FATHER

娘は

壊していく

自分が壊れないために

言葉と力と心で

買ったばかりのアイ・ポッド

友だちからの手紙の束

祖母の形見の京人形

自分の身体の一部

母親


踏みにじっていく

かけがえのない思い出

大切にしていたものへの愛着

理想の象徴への憧憬

注がれていたはずの愛情



明け方

矢も楯もたまらず確かめにいく

闇にまみれ

私は目を見開き耳をそばだて嗅覚を研ぎ澄ます

やがて一つのいのちが

ゆっくり静かに寝返りを打つ

こんな日でさえ

向かわなくてはならない場所がある

ビジネスという名のもと

責任や権限を携え

祭の旗がたなびいている

雲が淡くやさしく流れていく

歩道橋の上から母子が国道を見下ろす

家々のしじまが扇状地をせり上がる

軽やかなコーナーワークで

宅配ピザ屋のスクーターボーイが疾走する

なににも目を奪われず

私は情景を無口にする


昼下がり

まどろみの最中

私を揺り動かすものがある

青い空

白い雲

緑なす山

きらめく湖

そよぐ街路樹

あたりまえのようにあるものすべてが

私の父となり

私に目を見開き耳をそばだて嗅覚を研ぎ澄ます

見守られている

その息苦しさと安堵とで

私の心もゆっくり静かに寝返りを打つ

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「ありがとう」(発達障害について)

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 今日、小学生と、「ありがとう」はどんな時に言うのか、ということについて話しました。「ほしいものをもらった時」、「借りていたものを返す時」、「なにか助けてもらった時」・・・。普通私たちは、こんな時、けっして頭で考えるのではなくて、自然にわき立ってくる感謝の気持ちから「ありがとう」と言います。このように、行動の源になり、自然にわき立ってくるはずの感情をいだくことができない、ここに発達障害の核心があると思います。このことを、対人関係上においてとらえるとするなら、『他の人の立場になって感じる力[他者視点もしくは心の理論=TOM(thought of mind)と言います]の欠如』ということになります。

 小学生に会う前に、傷だらけになったレンズを交換するため、眼鏡屋さんに立ち寄りました。そのついでに、色覚についても調べてもらいました。私は強度の赤緑色弱です。これも一種の障害です。赤・茶・緑・紫などの区別がほとんどできません。新5千円札が出た当初、色だけでは千円札との区別がつかず、コンビニなどで、千円札のつもりで5千円札を出してしまい、店員から、「まずは4千円から・・・」などと言われ、おつりを差し出され、どぎまぎしてしまったことが、何度かありました。眼鏡屋では、店長が対応してくれ、まず検査をしました。幾つかの色が散りばめられた円の中の数字やひらがなを読み取る検査でしたが、12問中2問しかわかりませんでした。その後、店長から渡された色つきのフィルターを目にあてがって見てみると、なんと、まるで手品のように、全く見えなかった数字やひらがながくっきり浮かび上がってきました。別の世界を見た気がし、驚かずにはいられませんでした。

 私の赤緑色弱は先天的・遺伝的なものです。また、いくら集中力を高め、努力してみても、見えないものは見えません。高機能自閉症やアスペルガー症候群などの発達障害も同じです。問題行動があったとして、それが本人のなまけだとか努力不足だとか人間性に起因するものではけっしてないということを、理解しておく必要があります。

 この文章を書きながら、今月の上旬、ある小学校の入学式に出席した時のことを思い出しました。お祝いの挨拶で、校長先生や来賓の方が「ご入学おめでとう」と言う度に、1年生が、ゆっくり大きな声で、「あ・り・が・と・う・ご・ざ・い・ま・す」と答えていました。式半ば、教頭先生による祝電披露がありました。「祝電が届いていますので、一部披露させていただきます。1年生の皆さん、ご入学おめでとうございます。・・・」すると、ここでもまた、[あ・り・が・と・う・ご・ざ・い・ま・す」と、可愛い返事が返ってきました。来賓席や保護者席から、仄かに笑い声が聞こえてきました。大変微笑ましい光景でした。

 宇多田ヒカルの『Flavor Of Life』、いい歌です。その出だしは確かこうでした。「ありがとう、と君に言われるとなんだかせつない」 

 「ありがとう」という言葉、私自身、今まで上手く使えていたのでしょうか。

  

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秋田・女子中学生校内自殺のニュースについて

 また、悲しい出来事がありました。http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080316-00000002-sph-soci

 卒業式で歌われる歌の歌詞の中に、『心って、海より深い』というようなフレーズがあったことを、ふと思い出しました。例えば人の心の深さが海のそれと同じだとして、私たちがわかっている部分なんてたかだか『庭先の池』くらいのものです。平成16年の年末、両親が教師だった引きこもりの19歳の青年が、その両親を鉄アレイで殴り殺すという痛ましい事件がありました。母親は、その数年前から、教師を辞め本人の心のケアに尽くしていたそうです。その青年の苦悩にまみれた心は、誰にも手の届かない深いところにあったんだと、私はその時そう思いました。

 女生徒を死に向かわせた心の深み、そこに踏み入っていくことなど誰にもできなかったと思います。そういう意味では、誰を責めることもできません。しかし、それでは彼女の自殺という行為そのものを防ぐことはできなかったのかというと、けっしてそうではないと感じます。『対応の限界』と見切りをつけることなく、今後こういうことが繰り返されないよう、常に私たちは私たち自身の立居振舞いのありようも見定め合っていかなければなりません。

 若い頃、夜中に手紙を書いて、次の朝、投函する前にもう一度読み返して、あわててそれを破り捨て、胸をなで下ろした、というようなことが何度かありました。しかし、メールは書いたその場、その瞬間に相手に送ることができてしまいます。無防備で不安定で丸裸な心と心のふれあいの中で、便利さは、まさにもろ刃の剣です。例えば、携帯を持たすということは、場合によっては、引き金を引いたらどうなるのか、その危険性を知らない者に、銃を握らせているようなものでもあります。何年か前に、ノンフィクション作家で評論家の柳田邦男は、『ネット教育の弊害』に関わる新聞記事の中で次のようなことを述べています。「・・・。情報はもろ刃の剣。ものすごく便利な反面、情報操作による戦争の正当化や政治選択の強制からプライバシーの侵害に至るまで、凶器にもなり得る。ところが大人社会でさえ、情報のセキュリティもモラルも確立されていない。子供たちに、パソコン遊びを教えるよりも、情報化社会の危険性を考える力や、情報モラルを身につけさせるほうが先決だろう。小学校からパソコンを追放することまで視野に入れた議論が急務だ」

 若くて未成熟な心は、見境なく便利さを享受します。その背後には、自制し難い思春期特有の欲望が渦巻いています。彼らの心の深みに踏み入っていくことは難しいです。しかし、そこから死を追いやるために、私たち(大人)にできること・しなければならないことがあるはずです。

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リストカット

 今日、リストカットの女の子と面談しました。

 私が初めてリストカットの子とめぐり合ったのは、今から9年前でした。それ以来100例を超える数のリストカットを見てきました。これは一体どういうことだろうかと、自分自身で試みたこともありました。普通の精神状態ではけっしてできるもんじゃないと、その時実感しました。

 リストカットの背景には幾つかの意味があって、それによって傷の様子や深さなどが違ってきたりします。私は、リストカットがある場合は、見せてくださいと必ず頼みます。拒まれることはまずありません。傷を隠している子も隠していない子もいますが、いずれにしても、言葉では表現しがたい苦しみや悲しみや辛さがあって、それをわかってもらいたいという思いが、心の奥にあるんだなと感じます。

 多くが女性です。お母さんに対する、「HELP ME ! 助けて!」というような心の叫びの表現である場合が多いように感じます。

 もしリストカットがわかった場合には、本人としっかり向き合って、そっと手をそえてその傷を見ながら、どんな気持ちでやっちゃったのか穏やかに聞きます。そして、「いくら身体を傷つけても、心の傷は癒えないんだから、もうやめようか」と、優しく語りかけてほしいです。私はそうしています。「なぜやったの?」という聞き方は、本人を追い詰めてしまうことになるので、避けるべきだと思います。

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